平成から令和へ

インタビュー・平成、そして新時代

時代に適合し、
変化した者が生き残る


株式会社サイバーエージェント社長

藤田晋

平成という時代のなかで「ネット/ITベンチャー」という言葉が生まれ、それは大企業に代わり若者が憧れる存在へと昇華した。あるいは、サラリーマンではなく起業の道へ進むことは特別なことではなくなり、「働き方」の文化は大きく変質した。流れの端緒となり、常に若者の先頭に立って時代をリードしてきた藤田晋(45歳)。彼はいま、何を思い、どう新時代に挑もうとしているのか。

21世紀を代表する会社を創る――。ITバブル前夜の平成10(1998)年、サイバーエージェントはその震源地となった東京・渋谷で産声を上げた。インターネット広告に将来性を感じた藤田晋は、新卒で入社したインテリジェンスを早々に辞め、24歳で起業家の道を選ぶ。2年後、当時史上最年少で東証マザーズへの上場を果たし、日本の経済界にITベンチャーの存在を強く示すと、「アメーバブログ」によってインターネットをより人々に身近なものとし、スマートフォンアプリへの急激なシフトによってモバイルインターネットの文化も加速させていった。

そして昨年、創業20周年を迎えたサイバーエージェントは、スマートフォン向け動画配信サービスの「AbemaTV」によって、またひとつの文化を変えようとしている。「若者が活躍できる社会にしたい」という思いを抱き、変化を敏感に捉えながら、生き馬の目を抜く世界でトップランナーとして駆け抜けてきた藤田。時代の節目に、平成を振り返ってもらった。

もうインターネット以前の世界には戻れない

平成という時代とともにインターネットが勃興し、今日に至っています。この30年間で、世の中はだいぶ変わりました。

藤田大学へ進学したのが平成5(1993)年。数年後に初めてパソコンを買ってインターネットを経験しましたが、そのころはまだほとんどの人にとってインターネットは身近ではありませんでした。平成の入り口にいたころの自分からは想像もつかないくらい便利な世の中になったな、と最近すごく感じます。

ネットショッピングで検索すればすぐに欲しいものが見つかって、すぐに自宅に届きます。音楽も、サブスクリプションサービスで検索して、すぐにその場で聴けますし、Bluetoothなどでスピーカーに飛ばして大音量で聴くこともできます。これが学生時代だと、レコード屋に足しげく通って一生懸命CDを見つけ、その中にどんな曲が入っているかも分からないままに一か八かで買って、CDプレーヤーに入れて、再生して、ようやく聴くことができたわけです。それがこんなにも便利な世の中になった。もう、そんな時代には戻れないですよね。

サイバーエージェント創業、24歳の藤田(中央)

これからインターネットの時代が来ると一部の人が予見し始めた平成10(1998)年、藤田さんはサイバーエージェントをつくり、インターネット広告の代理業を手がけました。そのころ思い描いた通りの世の中になりましたか?

藤田インターネットの登場で、理論的に考えれば「あらゆるものがつながり、あらゆるサービスがネットに置き換わる、素晴らしい未来が待っている」と言われてはいました。ですが、多くの人は「まさかそんなことはあり得ない」と思っていたでしょう。既得権益を守りたい人たちは、できればそんな未来は来てほしくなさそうでしたね。

そういう風潮のなかで自分は、「未来を思い描いてそこに懸けた」というよりは、できればそんな未来が訪れてほしくはない“大人”たちの「逆に張った」というのが、正直なところです。

当時は、今のような未来が訪れるはずだ、という想像はできたけれども、確約があったわけではありません。自分たちも含めて、さまざまなプレーヤーが出てきて、未来が変わっていったという面も大きい。20年経って今はどうかと問われれば、あのころに想像していたことがほぼその通りになってはいますが、結果論です。

当時の史上最年少、26歳で東証マザーズに上場した

今の現実は皆でつくってきたものだと。藤田さん自身、あるいはサイバーエージェントという会社は今の現実に対して、どう寄与したと思いますか?

藤田我々は検索エンジンを作ったり、アマゾンのようなECサイトを作り上げたりはしていません。ただ、社名の通りサイバー上のエージェント(代理店)として、多くの企業の“インターネットシフト”を支援し、導いてきたという自負はある。少なくとも、インターネット・マーケティングの面では貢献できたかなと思います。我々がいなくても、そのぶん大手の広告代理店が活躍していたかもしれませんが、何年かは遅れていたと思いますね。

それから、孫(正義)さんが手がけた「Yahoo! BB」のおかげでブロードバンドが人々に身近なものとなりました。その上で、ユーザーがコンテンツやエンターテインメントを見たり、楽しんだりできるようにする、というのがサイバーエージェントの領域で、そこに特化してやってきたという自負はあります。

若者が活躍できる社会であれ

「時代を変えるんだ」というような、なんらかの社会的な使命感によって突き動かされてきたのでしょうか?

藤田最初から、事業やサービスを通じて、世の中をこう変えたい、という使命感があったわけではないです。ただ、平成の入り口でバブルが崩壊し、閉塞感が漂うなかで、インターネットを通じて日本を元気にしたい、という気持ちは当然あった。それから、これは僕のなかで一番強く感じていたことで、使命感と言っていいと思いますが、「若者が活躍できる社会にしたい」という気持ちは、最初から強く持っていました。

サイバーエージェントの若手幹部社員、役員など20代の社員も抜擢される

24歳で起業して、26歳のときに当時最年少で上場して、若者ばかりを集めた会社でそれなりのところまで持っていこうとやってきた。社会で若い起業家や経済人が活躍できないのは成功例がないからだ、と言われていたなかで、自分が成功例になって引っ張っていこうと、がむしゃらにやってきました。

結果として、自分の中ではけっこう多くの人に影響を与えられたんじゃないかなという、達成感じゃないけれど、そういう感触は得られているところはあります。僕はホリエモンと違って、逮捕もされていませんし(笑)。

創業して少なくとも10年はがむしゃらにやってきた部分はあるので、まず会社をちゃんと立ち上げていくこと自体が社会貢献だと思ってずっとやってきました。その先についてはそろそろ考えなきゃいけない時期だという感じですね。

既得権益側とのコミュニケーション

藤田さんは、幻冬舎の見城徹社長や秋元康さん、最近ではテレビ朝日の早河洋会長など、上の世代の方とも親しくされています。前の時代と、新しい時代の接着剤となって時代をつくるというような意識をされているのでしょうか?

藤田いや、起業してから10年目くらいまでは、既得権益の側にいるような方々とのかかわりは避けていたんですね。既存業界と一緒に事業をやったり、そのシェアを奪っていったりするよりも、新しい市場をゼロからつくっていったほうが、伸び伸びと自由にやれますし、気分もいいという気持ちでいました。

けれども、インターネット産業自体が、既存産業との連動というか、かかわりが避けては通れない時代になっていった。「Web2.0」と言われていたSNSやブログの時代は、まだネットだけで完結していて、そこに集まったユーザーに広告を出すという世界でしたが、スマートフォンが登場し、「Uber」や「Airbnb」のような、既存産業のコアに食い込むサービスが出てくると、ネットだけで完結してはいられない。

AbemaTV開局記者会見、テレビ朝日の早河洋会長(右)と

既得権益の側に迎合するわけではありませんが、彼らの価値感も理解していかなければならないし、ちゃんと会話ができるような形で付き合わなければ、受け入れてもらえない。もう殻を破らないといけないなとなって、それで、意識的にいろんな世代や業界の方と付き合うように振る舞っていったところはあります。


藤田が言うように、あらゆるインターネット企業が既存産業へと進出し、あらゆる産業がインターネットへ対応せざるを得ない状況となった。もはや産業をインターネットとそれ以外に区分することは無意味に思える。「ネット企業」という表現が平成の遺物となり、新時代が始まろうとしているいま、ネット企業の代表格であるサイバーエージェントにも、「変化が求められている」と藤田は話す。

社会的責任、過去とは比べものにならない

サイバーエージェントは昨年、創業20周年を迎え、平成という時代も終わります。次の20年、次の時代に向けて、なにか思うところはありますか?

藤田正直、会社の20周年だったり、元号が変わったりすること自体は単なる通過点に過ぎないので、特に意識することはないですが、さっき言ったように、インターネットの世界は大きく変わったと思います。

平成のインターネットというのは、インターネット好きな人がビジネスをやっていたけれど、いまはインターネットが当たり前のインフラになって、もはやインターネット好きって何だよ、みたいな時代。インターネット好きな人が単におもしろいアプリを作ったところで、なんのインパクトも経済効果もないですよね。大きなイノベーションを起こさなければいけない時代に変わったと思います。

我々も、かかわっていく業種が広がったり、規模や影響力も大きくなったりしていく。そうならざるを得ないなかで、会社がどんどん変わっていかなければならないという危機感を、強く感じています。同時に意識しているのは、過去とは比べものにならないくらいの社会的責任が生じているということです。

上場企業としての責任や、企業規模に応じた責任というのはもちろんあるのですが、インターネットが社会の当たり前のインフラになったことで、インターネット企業やインターネット上のサービスであっても、その社会的な責任というのは増大している。仮想通貨のトラブルのときに皆が思い知ったように、社会的な影響力が甚大になってきているので、我々も意識を改めないといけないというか、変わっていかなければと思っています。

こんなに感謝される事業をやったことはない

新しい時代、サイバーエージェントは具体的にどんなインパクトを社会にもたらそうとしているのか。やはり、スマートフォン向け動画配信の「AbemaTV」がカギとなってくるのでしょうか。

藤田そうですね。AbemaTVを始めて3年経ちますが、まだ立ち上げているまっただなか。新しいメディアをつくった、という段階なので、とにかくこの規模を大きくして、黒字化まで持っていく。これをやりきれば、社会的な意義も本当に大きいと思います。

サイバーエージェントをつくって、いま22年目になりますが、AbemaTVほど、こんなに人から感謝される事業をやったことがないというくらい、意義を感じる事業はありません。たとえば、これまでテレビでやることがなかったような麻雀のプロリーグや将棋を中継したり、大きな事件事故や災害時にテレビが中継を打ち切ったあともAbemaTVでは延々と流し続けたりしていますが、団体、視聴者含めて、いろいろな方から「ありがとうございます!」と感謝してもらえます。

かつてプロ野球がテレビとともに発展していったように、あらゆるマイナー競技やテレビでは中継されない競技を中継し続けることで、その競技が発展し、十分な収益を得られるようにしたい。子どもたちが憧れるような存在へと一緒に成長できれば、その意義は大きい。それから、テレビの影響力が弱まるなかで、報道やエンターテインメントにおける新たな立ち位置となる、テレビそのもののイノベーションを果たす、という意義もあります。

もともとAbemaTVは、テレビ朝日の課題解決から入っています。高齢化が止まらず、視聴者が減るばかりで、打つ手がないのであれば、我々が一緒にやりましょうと。その意味では、「Netflix」のようなレンタルビデオのイノベーションとは本質が異なる。テレビそのものの置き換えであり、いまのところ我々以外に挑戦しているプレーヤーは見当たりません。とにかく新しい時代のなかで、これをちゃんと完成させることが、まずは課せられた大きな仕事だと思っています。

藤田が初代チェアマンに就任した競技麻雀のプロリーグ「Mリーグ」、AbemaTVで生配信されている

「GAFA」のような会社を日本から

「AbemaTV」のほかに新時代に達成したいことはありますか?

藤田会社全体としては「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げています。次の元号の時代か、その次かはわかりませんが、世界に通用するサービスをつくり、世界的な成功を収めたい。日本の多くのインターネット企業はそこがだらしないというご指摘を受けますが、我々自身、諦めているわけではありません。

広告事業については、すでに海外に事業所をつくり活動しています。ただ、真のグローバル化かと言われると、やはりかつてのソニーやトヨタ自動車のような形で世界に知られなければ成功とは言えません。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)はそれができていますよね。そういう会社を日本から出さないといけないという気持ちはありますし、どんな事業、サービスで達成できるのかはわかりませんが、我々もそうなれるよう努力していきます。

平成という時代を通じて、GAFAという巨人が生まれ、世界中を便利にしたと同時に、世界中の情報やインフラを支配する構図ができあがりました。

藤田なぜグーグルみたいになれないんだと、国内の既存ネット企業を責める人もいますが、それを言ってもどうしようもないこと。現実には、検索やスマートフォンのOSなど彼らと同じ領域でひっくり返す日本企業が出てくる可能性は極めて低いわけです。

そもそも、ネットビジネスというのは、技術力にせよ、ブランド力にせよ、アタマひとつ抜けると、100個も1000個も突き抜けるように、差がつきやすい性質があります。そのことに、皆があまり気づいていないというか、もっと危機感を持って我々も頑張らなければいけないと思っています。

さらに新しい領域で競争力をつけていくしかない

新時代を明るい未来にするために、どうすべきだとお考えですか?

藤田基本的には、オープンでフラットな世の中になっていく流れには逆らえませんよね。中国のように外資に規制をかけてインターネット鎖国の状態にしたり、「Amazon」じゃなくて「楽天」をもっと使えと国を挙げて言ったりするのは現実的ではない。ただ、外資のほうが税制面で有利な状態にあるとか、一つひとつ解決しなければいけない問題はたくさんあります。

それから、我々民間レベルで言うと、平成の時代のように、海外でヒットしたものを日本仕様に焼き直すということをやっていては、確実に負けに向かっているようなものなので、やっぱり「AI(人工知能)」に代表されるような、さらに新しい領域で競争力をつけていくしかないと思うんですね。

新しい領域だったら、またガラガラポンになる可能性も十分にありうると思いますし、たとえばAIでも、医療など先回りできそうな分野はある。国家の戦略として、そういった可能性を伸ばしていくことも必要だと思います。

最後に、これまでインターネット勃興の時代をつくってきた代表者として、次の時代に向けた意気込みをお聞かせください。

藤田インターネット業界でもよく言われるように、ダーウィンの法則にある、時代に適合して変化したものが生き残るというのは、これからも変わらないんだろうなと思いますね。我々も、過去の成功などにしがみつかず、やはり時代によって変えていくべきです。今やっているものがあっという間に古くなるリスクがある一方で、逆に新しいチャンスは次々と出てきそうだなという感じもあります。心が休まることはありませんが、続けていくしかありません。

著者・編集:井上理 / Yahoo! JAPAN
写真:殿村誠士(別途記載の写真を除く)