平成から令和へ

インタビュー・平成、そして新時代

偏見は理解より
共感で突破する


武藤将胤

コミュニケーションクリエイター

2014年、27歳の時にALS(筋萎縮性側索硬化症)の宣告を受けた武藤将胤(むとうまさたね)。運動を司る神経細胞が侵され、進行すると意識や脳、知覚はそのままながら体が一切動かせなくなる難病だ。

武藤はテクノロジーを武器に、身体的制約を克服するだけでなく、今まで以上に格好良く生き続けて自己表現する。ダイバーシティーが求められ、ネットとテクノロジーが進化した平成の時代だからこそ生まれた新しい形のクリエイターとなった。その挑戦は、次の時代に向けてさらに加速している。

2月、武藤は声帯を切開して呼吸器を付けるための手術に踏み切った。その1週間前に行なわれた、最後の肉声によるインタビューである。

テクノロジーで身体を拡張する

次第に体が動かせなくなる。そんな病気になったとき、それでも希望を持ち続けられるだろうか。

「日々身体的な制約が増え、声を出すことも、呼吸することもどんどん難しくなり、常に新たな限界が目の前に突きつけられています」。しかし絶望してもおかしくないこの状況を、武藤は楽しんですらいるようにも見える。その根底にあるのは「できないことを憂うよりも、まずできることを見つけて評価しよう。できることを通して、さらに可能性を広げていこう、という考え方」だ。

「自分の体で最後まで動かせる場所があれば、そこを拡張していけばいい。

それが目だというなら、その動きをうまく使えるテクノロジーはどこにあるのか。足が動かせないなら、代わりになる技術をどうやったら手軽に使えるようになるのか。今の自分に何ができるのかを考え続ける毎日です」。

社会を明るくするアイデアを形に

武藤にとっての平成は「誰でもテクノロジーを手に入れられるようになり、かつ使いこなせるようになった夢の時代」だ。

仕事部屋には、映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」に登場したタイムマシン「デロリアン」や、「スター・ウォーズ」のグッズが数多く飾られる。SFファンを公言してその主人公さながら、テクノロジーをおもちゃのように自分の武器として使いこなす。

20代、大学卒業後は広告会社で広告プランナーとして活躍。武藤の「社会を明るくするアイデアを形にしたい」というビジョンは、そのころから変わらない。

「技術も身近になり、それを活用する人とも簡単に知り合える。ハードルがどんどん低くなって、できること、やりたいことが加速度的に増えています」

テクノロジーを武器に、その挑戦は加速している。

ネットの時代は、チーム戦でこそ生きる

情報はネットにいくらでもあり、自分を表現するための道具も豊富にある、一人でなんでもできる時代と捉えがちだが、武藤は「今の時代は、チーム戦でこそ生きる」という。

「僕自身ALSじゃなければチームをつくることをそれほど重視しなかったかもしれません。でも、ネットの時代だからこそ思いがけない出会いがあり、チームで想像以上のパフォーマンスを生むことができるのです」

多彩なチームで、どんどん進化していくプロジェクトの例が、音声合成技術とロボット技術を掛け合わせたプロジェクトだ。

自分の声をあらかじめ登録しておくことで、そっくりの声を合成してくれるコエステーション。現在、視線入力で使える研究をしているが、この先の応用事例のひとつが、コミュニケーションロボットを開発するオリィ研究所の「OriHime」というロボットとの共同研究だ。

分身ロボットOriHime-D、その開発者、オリィ研究所の吉藤健太朗・代表取締役 CEOと武藤

「自分の分身となってくれるロボットで、コエステーションを組み合わせると、僕の声で発話してくれるようになります。例えば自宅にいて、離れた仕事場でロボットが打ち合わせをしたり、別の会場で僕が講演したりというようなことが簡単にできるようになるわけです」

異なる技術をつなぐと何が生まれるか。ALS患者である自分にとっても、障がいとは無縁な人々にとっても、ワクワクするような未来をつくり続ける。

眼球の動きで音楽と映像を操るEYE VDJの誕生

武藤がテクノロジーで最も叶えたいことが「どんな人にも表現の自由が得られること」だという。

そうしたなかで、センサー付き眼鏡「JINS MEME(ジンズミーム)」を活用し、眼球の動きだけで映像と音楽を操る「EYE VDJ」という手法を生み出す。アメリカ・オースティンで開催されたSXSW(サウスバイサウスウエスト)をはじめ様々なイベントに出演、そのパフォーマンスは驚きと称賛をもって迎えられた。

EYE VDJのシステムは、目の動きだけで家電を操作できるAndroidアプリ「JINS MEME BRIDGE」の開発につながり、いまや多くのALS患者を手助けしている。

総合プロデューサーを務めた音楽フェスティバル「MOVE FES. 2018」で「EYE VDJ」のパフォーマンスを披露する武藤

「困っているから助けて」は、コミュニケーションじゃない

武藤がALSになってから変わったものもある。それが「時間の捉え方」だ。

「一瞬一瞬が常に真剣勝負という意識は強く持つようになりました。そのためには『ためらいや遠慮』を捨てる必要がある。残された貴重な時間を自分で奪ってしまうことになるからです」。それは特に人との関係づくりの場面で心がけている。

「多くの人は、障がい者とどう接していいのかがわからない。健常者だった僕は双方の気持ちが分かるので、できるだけ自分から場をリードするよう心がけています」

人との関係性を重視するのには、理由がある。

「挑戦を形にするためにはテクノロジーが必要ですが、もう一つ大切なものが『仲間』の力です。僕はもはや一人では生活していくことすらできません」。仲間を集めるためには、「共通のビジョン」と「共感」が必要だという。

武藤を支え、一緒に夢を追う仲間たち

「そもそも、一方的に『困っているから助けて』というアプローチでは、誰もついてこない。でも、『目だけでDJやVJ(ライブなどを映像で演出)ができて、みんなが簡単に音楽を楽しめるようになったらエキサイティングだよね?』というビジョンを伝えて、ある種のワクワク感を醸成すれば、モチベーションのスイッチが簡単に入ります。そして共感はすぐに広がっていくのです」

共感し合えるポイントを一つでも多く持つ

「面白い」「格好いい」「おしゃれ」といった共感を生む要素を大切にする。限定モデルのスニーカーを履き、車椅子とコーディネートする。その車椅子は「外部講師として小学校や中学校に行くと、『ロボットが来た!』と騒がれる」ほどギミック感が満載だ。

「障がいを乗り越えるための企画をつくる授業があって、そこで僕の生き方や課題、普段感じていることを伝えると、やっぱり子どもたちが持っている情報とだいぶ差があるんですよ。その偏見をなくしていきたいと思っています。

そんななかで『ロボットが来た!』は、とてもポジティブな反応だと思っていて。子どもって、かっこいい乗り物が好きですよね。共通して『いいな』と思えるようなところをうまく突くと、偏見は、とたんに共感に変わります」

心理的なボーダーを解きほぐすには、「理解」も必要だが、「共感」を抱いてもらうことのほうが、圧倒的にコミュニケーションのスピードが速く、伝播力が強い。武藤が常に心がける、コミュニケーション手段の一つである。

「先日もandropの皆さんと一緒にライブパフォーマンスをして、ステージの上は、障がいのあるなしに関係なく一つになれる場だと再認識しました。みんな障がいを抱えている自分を心配してくれるのですが、それが距離を生んでしまうこともあります。でも音楽を楽しもうということになると、一気に解消する瞬間が生まれます。

「J-WAVE INNOVATION WORLD LIVE PLUS」でandropと共演。VJだけでなく、演奏にエフェクトを掛けるなどのコラボレーションを行った

真のダイバーシティーというのは、やはり楽しいとか、気持ちがいいとか、そういうポジティブな感情を共有することからのほうが生まれやすいと感じています」

軋轢や衝突は、歓迎すべき出来事

一方、コミュニケーションが活発になるからこその軋轢も多く生まれる。

しかし軋轢は、歓迎すべき出来事で、むしろ怖いのは軋轢が「ない」ことのほうだ、と今は考えている。

「チームで動いていますから、みんなが真剣に目標に向かおうとするほど衝突は起こります。そのときは相手の気持ちを一生懸命ヒアリングして、考え抜いて理解して解消するしかない。でも、違うところもあるほうが、進化する可能性が大きいと思います。

軋轢を恐れてしまうと、悩み抜いて本質的な答えを出すことがないままプロジェクトが進んでしまう。そのほうが僕は不安です。つまり軋轢がないと課題が分からない。それは自分にとっては致命的な無駄になりかねません」

夢は東京オリンピック・パラリンピック

武藤は、次の時代の技術として「脳波」の活用に期待している。

「僕の仲間に、ALSが進行して目すら動かない状態になっている人もいます。そうなると、コミュニケーションの手段が絶たれてしまう。ではそのときに何に期待するかというと『脳』しかありませんから、脳波を使ったコントローラーの研究に1年前から取り組んでいます」

平成の次の時代は「テクノロジーを使って、どんな人でも自由に表現を楽しむ時代が来る」と考えている。「身体的な制約がある僕でも『表現する自由や楽しさというものがこれだけあるんだ』ということを証明したい。そして、全ての人が自分らしさを体現できるボーダーレスな社会を実現していくことが、僕のこれからの役目だと思っています」

目標に向かって、直近で実現したいことがあるという。東京で開催されるオリンピックやパラリンピックの開閉会式に「パフォーマーとしてぜひ参加をしたい」という夢だ。

「ALSのような重度の障がいを持っている人はそもそも動けないわけですから、オリンピックやパラリンピックに参加するというのは夢のまた夢だったんです。でも、テクノロジーが進化して身体的な機能を補完するだけではなく、拡張もしてくれるようになりました。僕が出てパフォーマンスをするということは、特にALSや重度障がいの仲間にも大きな希望になりますし、それこそが本当の多様性を社会が認めるということなのだと思います」

武藤 将胤

一般社団法人WITH ALS代表。
コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。
J-WAVE「WITH」ラジオパーソナリティー。

1986年、米ロサンゼルス生まれ、東京育ち。(株)博報堂/博報堂DYメディアパートナーズで「メディア×クリエイティブ」を武器に、様々なクライアントのコミュニケーション・マーケティングプラン立案や新規事業・コンテンツ開発に従事。2013年に難病ALSを発症、2014年に宣告を受ける。現在は、ALSとの闘病を続けながら一般社団法人 WITH ALSを起業し、活動を続けている。

WITH ALSのオフィスで、インタビューアーの品田英雄(右)と談笑する武藤

著者・編集:日経BP総研 / 博報堂 / Yahoo! JAPAN
インタビュー:品田英雄(日経BP)
写真:名児耶洋